特選コラム


 原点は「石けん運動」

 手作り石けんがブームになったのは2000年代はじめのようです。その火付け役となったのは、オリーブ石けんの作り方を紹介した前田京子さんの本「お風呂の愉しみ オリーブ石けん、マルセイユ石けんを作る」でした。私たちの石けんづくりも、この本から始まっています。



 ブームの理由には、それまでどちらかというと輸入品の高級食材というイメージだったオリーブ油が、身近なスーパーで手に入れられるものになったこともあるでしょう。また、スローフードや有機農法などが注目され、素材の背景などに目が向けられるようになったこともあると思います。それだけではなく、おそらく多くの人が、化粧品などが原因の肌荒れ、アレルギーの問題を抱えていたことにもあったのではないでしょうか。

 私たちもくせい舎にも、そうした視点はありました。しかし原点は、そこからおよそ30年ほど前にさかのぼります。1970年代に消費者運動として始まった「石けん運動」です。
 私が子供の頃、食器用洗剤のテレビCMでは、野菜を洗剤で洗う場面が流れていました。これは、野菜に付着した農薬を落とす意味があったらしいのですが、家庭の主婦の間からは、合成洗剤による手荒れ、肌荒れなどから、人体や環境に与える影響について疑問の声が上がり始めていました。
 特に私の住む滋賀県では、1977年に琵琶湖で赤潮が大発生し、県民全体が衝撃を受けました。その原因が、当時全国的に多発していた大企業の工場排水による水質汚染ではなく、各家庭から出る生活排水によるものだったからです。食器用、洗濯用の合成洗剤には、植物の栄養になるリンが含まれており、それがそのまま家庭排水として河川から琵琶湖に流れ込むことで、植物プランクトンの大量発生につながっていったのです。



 そこで、環境に悪影響を及ぼす合成洗剤ではなく「石けん」を使おうと始まった住民運動が「石けん運動」です。
 この運動は、リンを含む合成洗剤の使用を規制する「琵琶湖富栄養化防止条例」として結実しますが、合成洗剤メーカーは、無リンの合成洗剤を開発、販売することでこれに対抗しました。その後滋賀県では、下水道の整備が進められたこともあり、琵琶湖の水質は改善しているものの、微生物では分解できない、難分解性有機物の増加が問題になっているといわれています。
 一方で、この30年の間に合成洗剤は台所用、洗濯用から洗顔、入浴の領域にも進出してきました。シャンプー、リンス、ボディーソープ、洗顔フォームなどヘアケア、スキンケアに用いられるもののほとんどが合成洗剤に置き換わったことで、その影響は環境という自分自身の外側だけでなく、人体そのものにも及んできているのではないでしょうか。だからこそ、改めて手作り石けんが見直され、ブームになったのではないかと思うのです。



 石けんと合成洗剤は、似て非なるものです。石けんは動植物の油脂と苛性ソーダからできる脂肪酸ナトリウムとグリセリンが主成分で、その歴史は古代にまでさかのぼると言われています。生分解性に優れているため環境負荷が小さく、人体への影響もほとんどありません。洗濯に用いる場合、冷水に溶けにくいことや、石けんカスが出るというデメリットがありますが、洗い上がりはソフトで、エリ垢などの汚れまでよく落とします。
 一方の合成洗剤は第二次世界大戦中にドイツで開発されたもので、石油を原料とした界面活性剤に様々な助剤が添加されています。主成分の界面活性剤は生分解性が悪いため、環境に悪影響を与えるだけでなく、下水処理にも大きな労力を要します。食器用洗剤による手荒れ、衣類に残留した洗剤による肌荒れを起こすこともありますが、冷水によく溶け、洗濯物が白く仕上がることから好んで使用されるようになりました。ただし洗い上がりは固くなりがちなため、柔軟剤の併用が勧められていますが、柔軟剤には強いニオイをともなう合成化学物質が使用されており、化学物質過敏症という新たな健康被害の原因となっています。
 こうしてみると、環境のためにも、健康のためにも、そしてよりよい暮らしのためにも、石けんの方が優れていることが、明らかではないでしょうか。
 だからこそ「石けん運動」の原点に立ち返って、手作り石けんをお届けしたいのです。

(文責・河野)

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