1.手作り石けんをおすすめする理由
2.手作り石けんの世界

手作り石けんをおすすめする理由

 石けん、と聞いて思い浮かべるのは、お風呂場のプラスチックケースに置かれた白く四角い身体洗い用の石けん、とりあえず泡が立って洗うことができるけれど、洗い上がりはちょっと肌から潤いが抜けカサカサした感じになる、というものではないでしょうか。私自身がそうでした。
 そんな印象があるために、洗顔には石けんでなく洗顔フォームを使わないと肌が荒れてしまう…と思い、体には石けん、洗顔には洗顔フォーム、という使い方をしていました。
 それが当たり前と思っていた中、前田京子さんの著書『お風呂の愉しみ オリーブ石けん、マルセイユ石けんを作る(前田(2001年)飛鳥新社)』に出会い、実際に作ってみることにしました。もともとオリーブオイルを化粧用に販売して大きくなった某社の製品を愛用していたこともあり、オリーブオイルを主にしたその石けんのレシピに、惹かれるものを感じたこともあります。
 1ヶ月の熟成期間を置いて、ようやく使えるようになった手作りの石けん。その泡立ちや肌触り、洗い心地はこれまで私が「石けんとはこういうもの」と思っていたものとは、まったく違っていました。細かく肌に吸い付くような粘性のある泡は、まるでクリームのように滑らか。洗い流したあとの肌は、ほどよく皮脂が落とされ、ほどよく潤いを残していて、本来の皮膚の持つサラサラ、すべすべとした触感を取り戻した感じがしました。
 しばらく手作りの石けんを使い続けているうちに、これまでの習慣でつけていた洗顔後の化粧水や乳液が、実は不要なものだと気づきました。手作り石けんは、古くなった角質や余分な皮脂を洗い流し、天然油脂由来のグリセリンで肌をほどよく保湿してくれます。だから洗ったあともカサカサすることがなく、化粧水や乳液で保湿成分を加えて肌の調子を整える必要が、なくなったのです。
 生物学者の福岡伸一さんはその著書『動的平衡』の中で、食品や化粧品に添加されて「肌のハリ、弾力を保つ、蘇る」と謳われるコラーゲンの摂取について、実際にはまったく無意味であることを科学的に説明しています(福岡(2009年)木楽舎、76頁)。その記述を読んで、私は衝撃を受けました。実際には何の効果もない添加物を製品に加え「付加価値」を与えて高く売る。それが、私たちが知らずのうちに消費している「美」の「幻想」なのです。
 天然油脂を素材に作った手作りの石けんには、そうした「幻想」は加えられていません。16〜17世紀にかけて作られはじめ、人々の健康と衛生、とりわけ肌の美しさを守ってきた、天然油脂由来の石けんには、「歴史」の積み重ねによって保証された効能があります。それは余計なものを何も加えず、自分自身の皮膚のはたらきによって美肌を作るのを助ける、ということ。半年、一年と手作りの石けんを使いつづけることで、何もつけない素肌の健康が、取り戻されていくのを私は実感しました。
 お風呂で湯船につかり、石けんを泡立てて洗い流すひととき。それは種々の思い煩いや頭を悩ます幻想を脇に置き、ありのままの自分にもどってくつろぐひとときでもあります。それは手作りの石けんだからこそ味わえる、ぜいたくな時間です。

 一片の石けんから、そんな時間を手に入れてみませんか?

(文責・河野)




手作り石けんの世界

 ヘンリー・フォードが流れ作業のラインを発明して以来、規格化して大量生産された製品は我々の生活に溢れており、それが百年も続いたため、我々もそれに馴染み、人と同じこと、画一であることに安心感を感じてしまっています。ドライブの朝はマクドナルドで朝食を摂り、暗い夜道でコンビニの看板を見かけると、ついホッとしませんか? それは画一化された品質とサービス、休みのない24時間の営業を示しており、全国どこへ行っても同じアイコンです。
 手作り石けんの世界はそういった規格大量生産の世界とは全く異なるものです。それは家内制手工業であり、製品は規格化の視点から見ると呆れるほど均質でなく、製造できる量も少なく、しかも出来上がりは調製ごとに違います。ですが、この前時代的な石けんが洗浄力や使い心地、あるいは経済性で量産品に勝ることもあると言えば、信じてもらえるでしょうか。
 一例として、最近は古い旅館を買い取って新規に開業したホテルも少なくありませんが、そういった所は例外なく排水管から異臭がします。レストアの際に合成洗剤で清掃しているからで、ベンチメイド(手作り)の石けんならそんな臭いはしません。異臭の源であるタンパク質は微生物によって分解できるからです。合成洗剤は微生物を殺してしまいます。日々の清掃から食器洗い、浴用にベンチメイドの石けんを使うことで排水設備が浄化され、オーナーは余分なコストを掛けなくても良くなります。
 肌のお手入れもボディシャンプーやシャンプー、コンディショナー、洗顔石けんは意外と高く、さらに化粧水や洗顔フォームまで含めれば、実は男性でも洗浄剤にはかなりの金額を払っています。ベンチメイドの石けんなら一個で全てを賄えます。当舎の石けんの価格は量販品の倍ですが、それ以上の経済的効果があります。
 使うとメリットも少なくない手作り石けんですが、ご家庭で作るにはハードルもあります。調製の際に用いる強いアルカリはそれ自体危険物ですし、必要な量に比べ、取り揃える油や薬品が多すぎることも不経済です。作業には熟練が必要ですが、一年か半年に一回では熟練する機会もありません。経験不足から未熟な石けんを使うと肌に赤斑が生じたり荒れたりします。当舎では通常の二倍の時間を熟成期間に置き、製品テストをしてご提供しています。
 プロジェクトの存続には一定の需要が必要です。一定の需要は材料の確保を容易にし、製造を安定させ、より均質で高品質な石けん作りを継続することに役立ちます。需要が多ければ企業化のメドも立ちます。現時点では顧客も少なく、知る人ぞ知る当舎の石けんですが、趣旨をご理解いただき、使っていただける方を増やしていただければ幸いです。

(文責・堀内)


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